東京家庭裁判所 昭和47年(家)1266号 審判 1972年2月14日
申立人 小林守(仮名)
主文
下記の戸籍訂正を許可する。
1 本籍横浜市西区○○町一丁目一二番地小林万造の除籍中、
孫守の父母欄中父欄に「亡タナカ・ススム」と記載し、父母との続柄「男」とあるを「二男」と訂正し、
身分事項欄に
「明治四一年九月一九日英領カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州○○○○市で出生、
昭和一六年三月一〇日父母婚姻により嫡出子の身分取得大正一四年八月三日付ブリティッシュ・コロン
ビア州の出生証明書提出父の名記載及び父母との続柄訂正」と記載する。
2 本籍横浜市西区○○町一丁目一二番地小林守の戸籍中、
(1) 守の父母欄中父欄に「亡タナカ・ススム」と記載し、父母との続柄欄「男」とあるを「二男」と訂正し、身分事項欄に
「明治四一年九月一九日英領カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州○○○○市で出生、
昭和一六年三月一〇日父母婚姻により嫡出子の身分取得大正一四年八月三日付ブリティッシュ・コロン
ビア州の出生証明書提出父の名記載及び父母との続柄訂正
昭和三一年七月一七日中村ユキと婚姻届出、
昭和三一年七月一七日中村トミエを認知届出、
昭和三一年七月一七日中村サヨを認知届出、
昭和三一年七月一七日中村清を認知届出、」
と記載する。
(2) 同上戸籍に妻ユキ、長女トミエ、二女サヨおよび長男清として、下記のとおり記載する。
「妻ユキ」として
「父 中村重治
母 亡ミチ 五女
出生 大正六年六月二四日
身分事項欄に
大正六年六月二四日石川県○○市で出生父届出同月二九日同市長から送付入籍
昭和三一年七月一七日小林守と婚姻届出東京都中野区○○町五丁目二五番地中村ユキ戸籍から入籍」
「長女トミエ」として
「父 小林守
母 ユキ 長女
出生 昭和一九年一〇月二四日
身分事項欄に
昭和一九年一〇月二四日東京都○○区で出生
同年一一月四日母届出入籍
昭和三一年七月一七日小林守認知届出東京都中野区○○町五丁目二五番地中村ユキ戸籍から入籍」
「二女サヨ」として
「父 小林守
母 ユキ 二女
出生 昭和二二年四月二二日
身分事項欄に
昭和二二年四月二二日東京都○○区で出生同年五月六日母届出同年六月一三日同区長から送付入籍
昭和三一年七月一七日小林守認知届出東京都中野区○○町五丁目二五番地中村ユキ戸籍から入籍」「長男清」として
「父 小林守
母 ユキ 長男
出生 昭和二四年六月一七日
身分事項欄に
昭和二四年六月一七日東京都○○区で出生同月二八日母届出同年七月七日同区長から送付入籍、
昭和三一年七月一七日小林守認知届出東京都中野区○○町五丁目二五番地中村ユキ戸籍から入籍」
3 本籍東京都中野区○○町六丁目四九番地中村ユキの戸籍中、
(1) ユキの身分事項欄中「国籍カナダ小林守と婚姻届出昭和三一年七月一七日受附」とあるを「昭和三一年七月一七日小林守と婚姻届出横浜市西区○○町一丁目一二番地小林守戸籍に入籍につき除籍」と訂正し、同人の戸籍を除籍する。
(2) トミエの身分事項欄中「父国籍カナダ小林守認知届出昭和三一年七月一七日受附」とあるを「昭和三一年七月一七日横浜市西区○○町一丁目一二番地小林守認知届出父母との続柄訂正小林守戸籍に入籍につき除籍」と訂正し、同人の戸籍を除籍する。
(3) サヨの身分事項欄中「父国籍カナダ小林守認知届出昭和三一年七月一七日受附」とあるを「昭和三一年七月一七日横浜市西区○○町一丁目一二番地小林守認知届出父母との続柄訂正小林守戸籍に入籍につき除籍」と訂正し、同人の戸籍を除籍する。
(4) 清の身分事項欄中「父国籍カナダ小林守認知届出昭和三一年七月一七日受附」とあるを「昭和三一年七月一七日横浜市西区○○町一丁目一二番地小林守認知届出父母との続柄訂正小林守戸籍に入籍につき除籍」と訂正し、同人の戸籍を除籍する。
(5) 同上戸籍は全員除籍により消除する。
理由
1 本件申立の要旨
申立人は当庁昭和四六年(家)第五〇八七号就籍申立事件において、昭和四六年七月六日「本籍横浜市西区○○町一丁目一二番地筆頭者小林万造の除籍の末尾に、戸主との続柄孫、父母の氏名田中進、小林ミヤ、父母との続柄男、出生年月日明治四一年九月一九日として就籍することを許可する旨の確定審判を得て戸籍の届出をしたところ、上記の戸籍に、母小林ミヤの非嫡出子としての記載がなされたのみで父欄の記載はなされなかつた。しかしながら、申立人の父田中進(タナカ・ススム)はカナダ国籍を有し、申立人を出生と同時にカナダ法により認知し、その後父母は婚姻しているものであるから、現在の戸籍中父の氏名を欠く、しかも母の非嫡出子とする記載は錯誤による記載というべく、上記戸籍の訂正を求めるため本件申立に及ぶ。
2 当裁判所の判断
(1) 本件記録中のブリティッシュ・コロンビア州政府機関発行の出生証明書、婚姻証明書各一通その他の資料、ならびに前掲就籍申立事件記録中の資料、および申立人本人審問の結果を総合すると次のとおりの事実を認めることができる。
申立人の父田中進(タナカ・ススム)は明治四〇年五月一日カナダ国籍を取得し、日本から日本国籍を有する申立人の母小林ミヤを伴ない事実上結婚した。
申立人は小林ミヤを母とし、田中進を父とし、同人間の二男として明治四一年(一九〇八年)九月一九日ブリティッシュ・コロンビア州において出生し、田中進小林ミヤはそれぞれ申立人の父および母として州の登録官に出生登録をなした。その後申立人の父母は昭和一六年(一九四一年)三月一〇日カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州においてその州の方式に従つて婚姻した。ところが、申立人の父母は申立人の出生届出、父母の婚姻の届出をその当時日本の戸籍吏にしなかつた。
申立人は昭和一五年来日し、以来わが国に居住し父母もその後、日本に引揚げてきたが、終戦後あいついで死亡した。
以上の事実が認められる。
(2) 本件については(イ)申立人は日本国籍を有するか、(ロ)日本国籍を有するとすれば如何なる戸籍が編製されるべきか、(ハ)現在申立人につき編製されている戸籍に誤りはないかという諸点を考えなければならない。
(イ) まず、申立人がカナダ国籍を有することは、上記認定のとおり申立人はカナダで出生したものであるから一九四六年制定一九四七年一月一日施行のカナダ国籍法四条(a)項の、この法施行前カナダで生まれたものは出生によるカナダ市民である旨の規定により明らかであり、また申立人は日本人女の非嫡の子として出生したものであるから、旧国籍法三条により日本の国籍を有することが認められる。
(ロ) ところで、申立人につき如何なる戸籍が編製されるべきか考えると、申立人の父母が婚姻していることは前記認定のとおりであるから、申立人は父母の婚姻により準正され、嫡出子たる身分を有するものではないかということが問題となる。
前記認定のとおり、申立人は日本国籍、申立人の母は日本人で父との婚姻によりカナダ国籍を取得し(旧国籍法一八条)、父はカナダ国籍であるから、本件は渉外事件に該り、申立人の準正による嫡出子たる身分の取得について、まず準拠法の決定が問題となる。そこで考えるに、準正とは婚外親子関係の発生と父母の婚姻との結合を法律要件とする法律効果であり、いわば父母の婚姻を要件とする婚外子の嫡出化といえるものであるから、子の嫡出性取得の性質を有する問題といえる。わが国の法例には準正に関する規定を欠くけれども、上記のような準正の性質に照らし、子の嫡出性に関する法例一七条に準じ、母の夫の本国法によるべく、ただし、その本国法は子の出生時でなく、準正の要件発生時たる父母の婚姻時の本国法によるべきものと解される。
然るときは申立人の父母が婚姻した年である一九四一年当時の父の本国法カナダ法を準拠法とすべきところ、カナダは州により法を異にするので法例二七条三項により父の本国法として、その者の属する地方すなわちブリティッシュ・コロンビア州法を適用すべき場合と解される。ところが、ブリティッシュ・コロンビア州の一九四一年当時の子の準正に関する制定法は見当らないけれども、準正法Legitimacy act が一九六〇年に制定されており、同法二条(1)項によると、この法律施行以前に、子の出生後父母が婚姻したときは子は出生時に遡つて嫡出子となると定めているので、本件についても上記の法が遡及して適用されるものと解される。婚外親子関係と父母の婚姻が要件とされることは各国の法制とかわらないところであるが、婚外親子関係の成立につき同法に特段の定めはない。然るときは、婚姻親子関係については、英米法系の諸国の制度と同様、血統主義により事実上の親子関係をもつて足り、認知その他の手続を要しないものと解される。上記認定のとおり申立人の父母は申立人の出生に際し、州の出生登録官に対し申立人の父および母と記載して出生登録をしており、親子として永年養育していたものであるから、申立人と両名間には婚姻外の親子関係があつたものと認められ、父母が後に婚姻したことは前記認定のとおりであり、右婚姻は挙行地の方式によるものであるから法例一三条によつて適法であり、したがつて、上記準正法に基づき、申立人は出生以来、父田中進、母ミヤの嫡出子としての身分を取得したものと判断される。
一方申立人の母は父との婚姻により旧国籍法一八条により日本国籍を喪失したものであるが、主文掲記の小林ミヤの本籍にはこの旨の記載がなされていなかつたところ、戸籍の記載に遺漏がある場合にあたるとして、横浜市西区長は戸籍法二四条に基づき昭和四六年一二月二四日監督法務局の許可を得て職権訂正により、ミヤが「昭和一六年三月一〇日国籍カナダ、ススム・タナカと同国コロンビア州の方式により婚姻した」旨を記載し、かつ昭和四六年一二月二八日受附の申立人よりミヤの婚姻による戸籍法一〇三条に基づく国籍喪失届出によりミヤを前記小林万造の戸籍より除籍した。
ところが、申立人は前述したように、生来的カナダ国籍を有するものであるから、母の国籍変動あるいは準正により、旧国籍法上日本国籍を失わないものであるから、申立人の出生当時に入るべき戸籍にとどまらざるを得ないが、申立人の戸籍には父母婚姻により準正子たる身分を取得した旨の事項を記載すべきものと解される(昭和四六年二月八日付民事甲第五〇九号民事局長回答参照)。
(ハ) 然るに申立人の戸籍は、前記就籍により小林ミヤの非嫡の子としての記載がなされていることは前記認定のとおりであり、この戸籍の記載に遺漏のあることは、(ロ)に述べたところより明らかである。
(3) 以上の次第であるから、申立人の本件申立を認容し、関連戸籍を訂正すべきものと判断する。
よつて、主文のとおり審判する。
(家事審判官 野田愛子)